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 「ねえ、あんた。」
 声をかけられたのが自分だと、最初は思わなかった。
 だから通り過ぎようとしたのだが、裾を掴まれてヴァッシュは立ち止まった。

 「僕ですか?」
 「あんただ。」
 「あの、」
 辻に座し自分の裾を掴んでいる怪しげな占い師に、ヴァッシュはとりあえず笑いかけた。
 「手、離してもらえません?」
 「ああ、すまないね。」
 占い師は手を緩めた。
 が、その目はヴァッシュを見据えたままだ。
 占ってもらいたいような事は何もない。そもそも余分な金も無い。そういう事を柔らかい言葉で伝えてみたが、占い師はヴァッシュの言葉を無視する。
 どうしたものかな、とヴァッシュが占い師の顔を見返した。
 「?」
 目が合わない。
 占い師は、ヴァッシュとは少しだけ違う所に視点を合わせていた。
 まっすぐにヴァッシュを見ているにも関わらず。

 「あんた、死神がついてるよ。」
 ようやく開いた口から出た言葉は、そんな縁起の悪いものだった。
 その言葉に、ヴァッシュは思わず笑いそうになる。
 「僕自身が、昔は死神って呼ばれてましたけど。」
 久しぶりにその言葉を聞いた気がする。
 その時を知っている人はもう誰もいなくなってしまったから、少し懐かしかった。
 「冗談を言ってるんじゃないんだけどね。」
 占い師は、頭まで被った薄汚い布の中で眼だけをギラギラとさせている。
 「そいつ、ずっとあんたの隙を狙ってるよ。」
 悪い事は言わない、と占い師は続けた。
 「教会にでも逃げ込んで、何とかしてもらいな。」
 多分、そいつは神様に弱いよ。
 そういうと、やっと占い師は視線をヴァッシュに向ける。
 「あんた以外のヤツには興味が無いようでね、他に迷惑かけそうな具合じゃあないんだが。」
 膝を組みかえて、占い師は息を吐いた。
 「おまけに、あんたを守ってくれてるようなのがあんたの後ろにゃ居ないんだ。あんたホントに人間かい?」
 「…さあ。」
 ヴァッシュは笑うしかない。そもそも人間ではないし、それを答えても仕方がないし。
 多分「守ってくれるようなの」が居た事が無い状態で、ヒトよりずっと長く生きている。
 「あの、もういいですか?」
 恐る恐るヴァッシュが尋ねると、占い師は掌を差し出してきた。
 「50$$でいいよ。」
 押し売りの占い結果にそれは高いだろうと、ヴァッシュは20$$を無言で差し出した。これすら本当は払わなくてもいい筈のものだ。
 占い師はにやりと笑ってそれを受け取った。
 「あんたに幸運を!」
 「ありがとう、アンタにもね。」
 苦笑を返し、ヴァッシュはその辻を後にした。
 人と必要以上に言葉を交わしたのは久しぶりだったから、少し疲れた。



 あの占い師は本当に何かを見る事ができるんだろう。少なくとも、ヴァッシュの持つ、人とは違う物を読み取っていた。
 この自分に対して死神とは、笑ってしまうけれど。不安を煽る方がいろいろと効果的なんだろう。
 「教会ねえ…。」
 それは、ずっともう長い事足を運んでいない場所だった。
 どこにでもあるその施設は、ヴァッシュにとっては余りにも遠い所になっていた。
 祈る気は無いけれど(だってそれが無駄だとよく知っているから)、良いきっかけかもしれない。
 「安心しなよ、別に、祓ってもらおうとか、そういう気持ちじゃないから。」
 居るかもしれない自分の後ろに、そうヴァッシュは声をかけた。
 ホントは、祓ってもらった方がいいかもしれないけれど。
 「…。」
 安宿の片隅で、大きな氷の塊をグラスに放り込むと、そこに酒を注いだ。そして自分の席の向かい側にそれを置いた。
 「もし居るなら、飲んでいいよ。」
 誰かが今のヴァッシュを見たら滑稽だと笑うかもしれない。
 孤独は嫌いだけれど、喪失よりはずっといい。でも、寂しい。
 「どうしたらいいんだろうねえ。」
 だから思い込みでもいいから、そこに何かが居ると信じる事にした。
 死神を恐ろしいと思えるような生き方はしていないから。
 それに、別に、本当に自分に死を招くものでも構わない。
 傍に誰かが居る(かもしれない)、そんなのはとても久しぶりで。20$$で意外と良い買い物をしたのかなと思った。
 皆、みんな。もう誰も居ない。
 そう思っていたけれど、そうじゃないと今だけでも思っていいのかな。

 カラン、と、音を立てて、グラスの中の氷が回った。
 氷が溶けたからだと取るか、誰かが飲んだからだと取るか、別にそんなのは自由だろう。
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薔薇って昔はそんなに好きじゃなかったんだけど、最近は好きになってきた。
何でかなーと思ったら、薔薇と良い思い出がセットになっているからだって思い当たった。

仕事が忙しくて、今日は久しぶりの休みだけど、明日からもまたずっと仕事で、本当に疲れてて。で、甘い物欲しくて帰りに寄ったスーパーで、赤いミニ薔薇を見かけた。
昔貰った鉢植えのバラとよく似てて、すごく懐かしくて初めて自分のために花を買ってみた。

あー、もうちょっと頑張れってことかなあ。この仕事に関わるための最後の段階をクリアした時に貰ったんだよね…あれ。

「好きだよ」
「好き」
「好きだ」

 何度も唇に乗せる言葉。幸せに満たされる言葉。
 愛してる、というのとは少し違う。

 本当に、好きだ。
 胸を満たすこの、衝動を。言葉に変えるとそれはふんわりと優しい熱になる。
 「ずっと好きだ。」

 僕の涙はすっかりと枯れてしまっていて、君の事を考えてももう一筋の水分もこの目からこぼれる事はない。
 ただ、ただ、やさしい熱が口からこぼれるだけだ。

 「好きなんだ。」
 君が僕の前に居る間に言えばよかった。
 後悔といえば、そのくらい。

 抱きしめる体がもうどこにもなくても、君のよすがが、この世からすっかりと消え去った今でも。
 ちゃんとその気持ちだけはここに残っている。

 僕が消える、その時まで、ずっと。君と居る。
 だから僕は、多分幸せだ。

…手芸をしている気がします。仕事で展示用のサンプルを作ることになって、
 「布端なら、買わなくてもちょうどウチにいろいろ余ってるよー。」
 「何で?」
 「え????っとーお。趣味!?」

 女子だと言われたが、ごめんなさい、腐女子です。本作ってた残りとか、頼まれて作った人形服の切れ端とか。
 光と虫に使った布は分かるけど、砂の神さまの切れ端が出てきたときには、よくコレわざわざ持って帰ったなあ(当時の下宿先から。なぜ捨てなかったのか。)とか。
 いつか使うかと思ってて残してたけど、まさかこんなまっとうな使い方するとは思わなかったー。
 さすがに紙・飛行機(と、つくつく法師)の布は出てこなかった。
 あれが出てきたら、本当に涙出るかもしれない。思い出が多すぎる。痛い思い出も含め。

 さてサンプル作るか。(サービス労働。くそう。)
映画版のSSです。最初と真ん中と最後は書き終わってるんですが、他のシーンは映画を見返さないと書き終われない話。書き終わったらサイトに上げますが、BDを家に取りに行く時間が無く…!!!

VWだけど全年齢。最初だけ。


 罅‐ひび‐

 小さな罅がある。いたるところにある。それはヴァッシュの中にもあって時に彼を訝らせる。
 ヴァッシュはサンドスチームの切符をポケットにねじ込んで、荷物を肩にかけた。
 乗る予定の便は、今日の午後だ。

 もうずっと長い事、一人で居る。
 けれど時に、ヴァッシュはそれに違和感を感じる事がある。
 隣に誰も居ない事に不自然さを感じる事が、時に。
 「誰か」が居ない。
 人恋しいのだろうか。だけどそれも妙な話だ。
 孤独のあまりおかしくなっているのかもしれないな、と、ヴァッシュは他人事のように笑った。
 だから、いつもより余計に、少しだけ人に踏み込んだ。





 サンドスチームで自分をあしらうアメリア。ヴァッシュが彼女を気にかけたのは、決して美しいという理由からだけではない。

 脳の中ひしめき合う人の情報。
 長い時の間に出会ってきた人、人、人。それはヴァッシュの中で細かく分類され系統化されていつでも引き出すことができる。
 その遺伝子を継いだ者たちの中から容易にその面影を見出すことができる。
 もしかしたら、あと100年もしたらこの星のヒトすべてがヴァッシュと関わりがある者になるかもしれない。
 何しろその数は増える事はあっても減ることはない。

 この美しい女性の表情や物腰の中にも、覚えのある物が紛れていた。
 そして、嫌な予感がしたから。
 自己満足のための行動なのに、それを「アナタのタメだ」なんて言ったら、きっと酷く罵倒されるだろう。だから口に出さずに、事が起こらないようにふるまう。
 軽薄な男を装って。


 「それはオドレの自己満足やろ。」
 そんな彼の声が聞こえた。一度だってこんな時、ヴァッシュとウルフウッドの意見が合ったことはない。
 殺してはいけません。
 こんな当たり前に正しい事が、どうしてか彼には通じない。
 どんな理由があっても、目の前で命が消えていく痛みを感じるのは嫌だった。
 だからこの行動は、彼女のためではないんだ。と、ヴァッシュは自嘲する。多分そこをウルフウッドは分かっている。
 けれどヴァッシュには、綺麗ごとで返す事しか出来ない。





 何で急にあの男の事が思い浮かんだのかな。
 ヴァッシュは首をかしげた。

 心の罅から、ジワリと何かが滲む。
 その味は苦かった。
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